2017年4月11日火曜日

朝鮮半島有事

韓国と北朝鮮は休戦中である。三十八度線は国境ではなく、休戦ラインに過ぎない――。





中学生の頃に初めて知った海の向こうのその現実は、日本の知識人によって、ことあるごとに「朝鮮半島有事」と結びつけられてきました。





しかし、「朝鮮半島で何かが起こった場合」という想定は、If something were to happenIf something should happenといったまさに「万一のあり得ない現実」を表す英語の仮定法の世界であり、空想の世界の話に過ぎませんでした。それは単なる「可能性」であり、「蓋然性」ではなかったのです。





夏目漱石は自分の講義中に生徒から「可能性」と「蓋然性」の意味の違いを尋ねられて、「私がこの教壇で逆立ちする『可能性』はあるが、『蓋然性』はない」と答えました。まさに今の「朝鮮半島有事」は「可能性」から「蓋然性」にシフトしつつあります。





現在、アメリカは原子力空母カール・ビンソンを朝鮮半島近海に派遣していると報じられています。空母は海上基地として空爆の起点となるため、北朝鮮にとっては相当な圧力となるのは間違いありません。






そもそも、アメリカには退く理由がありません。放っておけば、北朝鮮がアメリカに届く核爆弾を開発するのは時間の問題であり、アメリカの国益を損なう国家だからです。






アメリカ・ファーストを掲げるトランプ大統領にとって、核開発を進める北朝鮮を排除することは、アメリカの国益を守ることと同じです。






大統領選挙の際は長年アメリカが負ってきた警察国家の役割を放棄すると訴えていましたが、ここへきて政策転換したのは明らかです。裏返せば、世界の紛争地域に積極的に介入して、アメリカの国益を守るというスタンスにシフトしたとも言えます。







シリアの空爆でアメリカはロシアを刺激しました。ロシアを敵に回してまで、北朝鮮に対する警告を入念に行っているとも考えられます。今のアメリカにとって、北朝鮮に対する軍事行動の示唆はブラフではなく、「ロシアを敵に回しても構わない覚悟」を持っているとも言えるでしょう。







ましてシリアの空爆をアメリカ国民の半数以上は支持しています。それも追い風になるでしょう。自国に向けた核爆弾を開発していると公言している国に対して軍事行動を行ったとしても、アメリカ国民は余程のことがない限りシリア以上に支持するはずです。






北朝鮮が核開発放棄を宣言すれば、一時的にせよ、軍事行動は回避されます。他方、アメリカは水面下で「有事回避」のウルトラCを探っているでしょう。







現実となる「朝鮮半島有事」は、世界経済を巻き込んだ一層不安定な世界を生み出すかもしれません。






今、多くの「現実候補」が先を競って「世界史という現実の舞台」に上がろうとしています。最後にその舞台に上る「現実」はどんな現実なのでしょうか。







#102017.4.11











2016年11月9日水曜日

11月9日、アメリカ大統領選挙

今からちょうど27年前の1989119日。ベルリンの壁が崩壊しました。その様子をテレビで観ていた私は、衝撃に打ち震えました。一枚の岩盤のように強固に思えた「世界」の脆さを目の当たりにしたからです。





社会主義が資本主義の前に屈する。世界の枠組みも崩れ去った瞬間でした。ベルリンの壁崩壊は「東欧革命」の象徴的として、歴史にその名を刻みました。





奇しくも、ベルリンの壁崩壊と同じ119日、第45代アメリカ合衆国大統領にドナルド・トランプ氏が決定しました。





仮に30年前なら、トランプ氏はトリックスターで終わったでしょう。共和党の候補者にすら選ばれることはなかったに違いありません。当時の人々はトランプの発言に眉をひそめ、金持ちの道楽としてジョークの対象で終わっていたと思います。





しかし、グローバル化による経済格差が進み、資本主義が一部の富裕層のためにシステムに変わり、中産階級は仕事を奪われました。それまでは黒人に集中していた貧困が白人の中産階級まで根を生やしたしのです。





過激で下品な発言にも目をつぶり、過半数の人々がトランプ氏に投票しました。それほどアメリカは追いつめられていました。





エスタブリッシュメントと呼ばれる「既得権益を享受する支配階級」だけが得をするシステムを壊して欲しい。アメリカ人が望んだのは「変化」ではなく、「破壊」のようにも思えます。





彼らが頼ったのはドナルド・トランプという人間ではなく、「既存の政治とは正反対にいて、既存のシステムを壊し、古き良きアメリカを取り戻してくれそうな人物」でした。





人種、宗教、国家。これまで世界を分断してきたものに、経済格差が加わりました。富裕層と貧困層の分断がこの選挙ではっきりしました。





日本にも同じ構造が見られます。いつの日か、既得権益を享受しない若い世代が同じような「破壊」を起こすことなるでしょう。行き過ぎた資本主義とグローバリズムによって生み出された格差という分断は、さまざまな形で世界を揺るがします。





#92016.11.9







2016年9月20日火曜日

成長戦略

アベノミクスの最初の「3本の矢」は、「大胆な金融政策」「機動的な財政政策」「投資を喚起する成長戦略」の三つを指します。





その後「新たな3本の矢」として、2020年に向けた経済成長を促すために、「希望を生み出す強い経済」「夢を紡ぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」を打ち出しました。





今の日本経済は風邪を引いている状態です。軽い風邪ではありません。体力が低下している重い風邪です。





日本銀行の「大胆な金融政策」とは、薬や栄養剤と同じです。症状を緩和して、一時的に体力を回復させるものです。これは対処療法と呼ばれます。





しかし、対処療法はあくまでその場しのぎであって、根本的に風邪を治療するものではありません。免疫力を高め、体力を回復させることが必要になります。それは原因療法と呼ばれます。





「成長戦略」とは原因療法です。しっかり食事と睡眠をとって、体力そのものを回復させ、免疫力を高める方法と同じです。実体経済と呼ばれる「体力」を回復させなければ、国際経済という「気温」の変化によって、ぶり返してしまいます。





確かに日銀の金融政策によって、株価は上がりました。日本経済は一時的に熱が下がり、顔色がよくなっています。しかし、「健康体」に戻ったわけではありません。モノを作り、モノが売れ、雇用が生まれる。そうしたお金の循環が健康体の血液のように流れる体をつくり出さなければ、新しい「動き」はできません。





新たな3本の矢では、「夢を紡ぐ子育て支援」「安心につながる社会保障」が掲げられていますが、これらの動きも実体経済という強い健康体があってのことです。





ではどうすれば実体経済を強くできるのでしょうか。ベンチャー企業やイノベーションによって雇用を生み出すことも必要です。しかし、それは働き手があって成り立つものです。少子高齢化によって労働人口の減少が続いていますが、この点の「原因療法」を見つけないことには、「体質改善」とはなりません。





#82016.9.20